世界で2番目に大きな魚・ウバザメが、アイルランドの海でときに何百頭も集まるのはなぜでしょうか。アメリカとアイルランドの研究チームが、サメ1頭1頭の動きをコンピューターの中で再現するモデルをつくり、「えさ」と「なかま」の両方が集まりのカギらしいことを示しました。
1,000頭が集まることもある海
研究の舞台は、アイルランドの北のはし、ドニゴール州のイニシュオーエン半島の沖です。このあたりではウバザメが海面近くに集まることがあり、多いときは1,000頭ほどにもなります。ただ、なぜ集まるのか、なぜ年によって多かったり少なかったりするのかは、よくわかっていませんでした。
研究をまとめたのは、アメリカのジョージ・メイソン大学と、ウバザメを調べる団体「アイルランド・ウバザメ・グループ」のチェルシー・グレイ博士たちです。論文は学術雑誌「インディビジュアル・ベースド・エコロジー」に10月1日に掲載され、10月29日に出版社が内容を紹介しました。
コンピューターの中で36年分を再現
チームがつくったのは「個体ベースモデル」とよばれるしくみです。サメの群れをひとかたまりで考えるのではなく、1頭1頭に「どう動くか」のルールをあたえて、コンピューターの中の海を泳がせます。ウバザメについてこのようなモデルがつくられたのは初めてです。
えさになる動物プランクトンも、これまでのように海の色(植物プランクトンの量)から想像するのではなく、直接コンピューターで再現しました。そのうえで、1982年から2018年までの36年分を動かし、市民などから寄せられた実際の目撃記録とくらべました。
「えさ」と「なかま」の両方がカギ
サメの動き方は4通りためしました。①えさだけをさがす、②なかまだけをさがす、③えさとなかまの両方をさがす、④でたらめに泳ぐ、の4つです。その結果、①と③が実際の目撃記録とよく合い、いちばん合ったのは③でした。たくさん集まる年と少ない年がくり返す様子まで再現でき、グレイ博士は合い方が「驚くほど」だったと話しています。一方、でたらめに泳ぐサメは、2〜3頭より大きな集まりをつくりませんでした。
今のモデルでわかるのは「いつ集まりそうか」で、「どこに集まるか」まではまだわかりません。それでも、海があたたかくなったときや、保護区をつくったときにサメがどうなるかを考える道具になると期待されています。ウバザメのおもなえさであるカイアシ類というプランクトンは、北へ移っているように見えるといいます。モデルは論文の付録でだれでも使えるように公開されています。
豆知識:大きいのにやさしいサメ
ウバザメはふつう全長3〜8mほどで、きちんと測られた中で最大のものは約12mありました。体は大きいものの、歯でえものをおそうことはなく、大きな口をあけたままゆっくり泳ぎ、水の中のプランクトンをこしとって食べます。このような食べ方をするサメは、ウバザメのほかにはジンベエザメとメガマウスザメしかいません。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは絶滅危惧種とされています。
日本の海にもやってくる
ウバザメは世界中の冷たい海から温帯の海まで広くすんでいて、日本の近くにもいます。あたたかい季節には岸の近くに来ることがあり、瀬戸内海や茨城県の日立沖で見つかった記録もあります。同じようにプランクトンを食べるジンベエザメは、日本の水族館でも人気者です。海で大きな背びれを見かけたら、ゆっくり泳ぐウバザメかもしれません。近づきすぎず、そっと見守りましょう。
ここがポイント
- アイルランド沖では、ウバザメが多いときに1,000頭ほど集まる
- 1頭ずつ動かすモデルで、1982〜2018年の36年分を再現した
- 「えさ」と「なかま」の両方をさがすサメが、実際の記録といちばんよく合った
- ウバザメは日本の近くの海にもすむ、プランクトンを食べる大きなサメ
出典: Pensoft Blog(2026年10月29日)、Individual-based Ecology(Gray et al., 2026)(2026年10月1日)、ウィキペディア「ウバザメ」