写真はイメージです(Photo: Jack Plant / Unsplash)
犬の肝臓にできるがん「肝細胞がん」で、ある体のたんぱく質が少ない犬ほど、肝臓のほかの場所にも病変(病気でかわった部分)が見つかりやすい傾向があることがわかりました。大阪公立大学の研究グループが2026年11月4日に発表しました。手術の前に病気の広がりを見通すための、新しい手がかりになるかもしれません。
大阪公立大学の獣医師たちが発表
研究をしたのは、大阪公立大学大学院獣医学研究科の田中利幸准教授、富張瑞樹教授、長谷川貴史教授と、獣医学を学ぶ学生の岩崎喜子さんです。論文は、動物の医療をあつかう国際的な学術誌「BMC Veterinary Research」に、2026年10月2日にインターネット上で公開されました。
注目したのは「SLPI(エスエルピーアイ)」というたんぱく質です。体の中で、たんぱく質を分解する酵素(体の中の化学反応を助ける物質)の働きをおさえる役目をもっています。人の肝細胞がんでは、SLPIが少ないと経過がよくないという報告があり、犬ではどうなのかを調べました。
肝臓のかたまりは、見分けるのがむずかしい
犬の肝臓には、悪性の「肝細胞がん」と、良性の「肝細胞腺腫」というかたまりができることがあります。どちらも、造影剤という薬を使って体の中を写すCT検査では、似たような写り方をすることがあり、見分けるのがむずかしいとされています。
また、肝臓の中にかたまりが1つだけでなく、いくつもできる「多発病変」がある場合もあります。手術で大きなかたまりを取っても、ほかの場所に小さな病変がかくれていることがあるため、それを前もって知る方法が求められていました。
13頭の犬の組織を調べた
研究グループは、手術で取りのぞいた犬の肝細胞がん9例と、肝細胞腺腫4例、あわせて13頭分の組織を調べました。肝細胞がんは、CTで造影剤によって強く写った3例と、写らなかった6例に分けました。そして、かたまりの部分と、そのまわりの正常な肝臓の部分で、SLPIの量をくらべました。
さらに、CTの画像で肝臓の中の病変の数を数え、カルテ(診療の記録)から、手術のあとに再発や転移があったかどうかも確かめました。手術後の経過は15か月にわたって追いかけています。
SLPIが少ないほど病変が多い傾向
CTで、取りのぞいたかたまり以外にも病変が見られたのは、肝細胞がんで5例、肝細胞腺腫で1例でした。肝細胞がんでは、まわりの正常な部分とくらべてSLPIの割合が低い犬ほど、多発病変がはっきり多いという結果になりました。肝細胞腺腫でも、同じような傾向が見られました。
一方で、SLPIの量と、手術後の再発や転移とのあいだには、はっきりした関係は見つかりませんでした。研究グループは、SLPIが肝臓の中で病変が増えるのをおさえている可能性もあると考えています。
これからの課題
今回の研究は、調べた犬の数が少ないことが課題です。また、取りのぞいたかたまり以外の病変は、本当にがんかどうかまでは確かめられておらず、それぞれの病変のSLPIの量も調べていません。研究グループは、こうした点を明らかにしながら研究を続けるとしています。今はまだ、動物病院の検査ですぐに使える段階ではありません。
豆知識:肝臓はどんな臓器?
肝臓は、おなかの上のほうにある大きな臓器です。食べ物からとった栄養をたくわえたり、体に悪いものを分解したりと、たくさんの仕事をしています。犬も人と同じように、年をとると病気が見つかることが増えます。食欲や元気、体重の変化など、気になることがあれば、かかりつけの獣医師に相談しましょう。定期的な健康診断も、病気を早く見つける助けになります。
ここがポイント
- 大阪公立大学が、犬の肝臓のがんと「SLPI」というたんぱく質の関係を発表
- 手術で取った13頭分の組織で、SLPIが少ないほど肝臓のほかの場所の病変が多い傾向
- 再発や転移とのはっきりした関係は見つからず、頭数をふやした研究が必要
- 体調の変化が気になったら、かかりつけの獣医師に相談を
出典: 大阪公立大学「イヌ肝細胞癌の多発病変予測につながる新たな手がかりを発見」(2026年11月4日)、BMC Veterinary Research 掲載論文(2026年10月2日)
