写真はイメージです(Photo: Jonas Degener / Unsplash)
雪の上でそりを引く「そり犬」は、ほかの犬やオオカミとくらべて足の骨が少し短い――。イスラエルのハイファ大学などの研究チームが、そんな特徴と、その足がそりを引くのに有利だという計算の結果を、2026年10月14日に科学雑誌「アイサイエンス」で発表しました。2,000年ほど前の犬の骨にも同じ特徴が見つかり、人と犬が北極の寒い地域で長く協力してきたことを知る手がかりになりそうです。
どんな研究なの?
研究をまとめたのは、ハイファ大学のミーチャ・クレッツァーマンさんたちのチームです。そり犬は、北極に近い地域でくらす人たちにとって、狩りに出かけたり、住む場所を移したりするのに欠かせない存在でした。ところが、そりの道具は木や革でできていて、長い年月のうちにくさってしまうことが多く、昔の犬がそりを引いていたかどうかを確かめるのはむずかしいとされてきました。
そこでチームは、骨の形そのものに「そり犬らしさ」が残っていないかを調べることにしました。
足の骨をくらべてみると
チームはまず、今のそり犬、オオカミ、雑種の犬、スピッツのなかまなど、あわせて60頭ぶんの骨の長さをくらべました。体の大きさのちがいを計算で取りのぞくと、そり犬は前足の骨(とう骨・しゃく骨)と、後ろ足のすねの骨(けい骨)が、平均でおよそ6%短いことが分かりました。前足や後ろ足のつけねに近い太い骨にも差はありましたが、それほど大きくはありませんでした。
昔の犬の骨にも同じ特徴
つぎに、ロシアの北東のはしにあるチュコト地方の3か所の遺跡から見つかった、およそ2,000年前から500年前の犬の骨82本と、ていねいに埋められていた3頭ぶんの骨を調べました。これらは、今のイヌイットの人たちの祖先とつながりのある人々のくらしのあとです。
調べた結果、骨のおよそ89%と、3頭すべてが、今のそり犬と同じ特徴に当てはまりました。そりの道具が残っていなくても、骨の形から「そり犬だった可能性が高い」と考えられるようになるかもしれません。
なぜ足が短いと力持ちなの?
チームは、足の長さや体のつり合いが、そりを引く力にどう関係するかをコンピューターで計算しました。その結果、体の重心(体の重さの中心)が低いほど、引っぱる力が強くなることが分かりました。とくに重い荷物を、短い時間にぐっと引くときに有利になるといいます。
クレッツァーマンさんは、荷物を引くと体は「後ろにかたむきがち」だと説明しています。足が短く重心が低いと、ふんばりがきいて後ろにひっくり返りにくくなる、というわけです。いっぽう、重心が体の前のほうにあると、軽い荷物を長い時間引くのに向いていることも分かりました。
どうして短くなったの?
足が短くなったしくみは、まだはっきりしていません。研究チームは、そりを引くのに有利だったため、その特徴が受けつがれてきた可能性を考えています。また、遺伝だけでなく、ビタミンAを多くふくむ食べ物(北極の海の動物の肉など)で骨の成長が早めに止まったことや、体が大人になる前から働いていたことも関係しているかもしれないとしています。ただし、どれがどのくらい影響したのかは、これからの研究が必要です。
豆知識:犬ぞりの歴史と日本の「樺太犬」
犬ぞりのいちばん古い手がかりは、およそ9,000年前のものとされ、ロシアのジョホフ島で、そりの部品と犬の骨がいっしょに見つかっています。人と犬は、とても長いあいだ、寒い土地でいっしょに働いてきたのです。
日本にも、そりを引いた犬の有名な話があります。1957年から1958年の第1次南極観測で、昭和基地には樺太犬15頭がいました。樺太犬はサハリン(樺太)や千島列島で育てられてきた犬で、マイナス40度の寒さにもたえられるとされます。基地に残されたタロとジロの2頭が、1959年1月に生きて見つかった話は、映画にもなりました。
これからどうなる?
骨の形からそり犬を見分ける方法が使えるようになれば、犬ぞりがいつ、どこから、どのように広がっていったのかを、くわしくたどれるようになると期待されています。それは、人々がきびしい北極の自然の中でどうやって生きてきたのかを知ることにもつながります。シベリアン・ハスキーなど、今も日本で見かけるそり犬の仲間を見かけたら、その足にも注目してみてください。
ここがポイント
- そり犬は、体の大きさを考えると前足と後ろ足のすねの骨が平均約6%短い
- 約2,000〜500年前のロシア・チュコト地方の犬の骨の約89%に同じ特徴
- 重心が低いと、重い荷物を引く力が強くなるという計算結果
- 日本でも南極観測で樺太犬がそりを引いた歴史がある
出典: Mirage News「Stubby-Legged Sled Dogs Helped Humans Cross Arctic for 9,000 Years」(Cell Press発表)(2026年10月15日)、Discover Magazine「Sled Dogs’ Stubby Legs May Have Helped Humans Travel the Arctic for More Than 9,000 Years」(2026年10月19日)、iScience掲載論文「Ancient Inuit dogs conform to a short-legged phenotype biomechanically advantageous for sledding」(2026年10月14日)、nippon.com「「ハチ公」だけじゃない!ニッポン「忠犬像」物語」(2024年5月6日)
