写真はイメージです(Photo: Just Jaxz / Unsplash)
アフリカの東の海にうかぶ島国モーリシャスで、満ち潮になると海の水にしずむ場所に巣をつくる、めずらしいクモが新種として紹介されました。名前は「モーリシャス・タイダル・トタテグモ」。国際的な自然保護団体のダレルが、10月27日にこのクモについて発表しました。
波がかかる岩の中にすむクモ
このクモの学名は「イディオクティス・マレヴァルム」です。学名とは、世界共通で使う生き物の正式な名前のことです。「マレヴァルム」はラテン語で「海の壁」という意味で、波打ちぎわの岩場にすむことから名づけられました。見つかったのは、モーリシャス本島の南東の沖にある「イロ・ヴァコア」という小さな島です。広さは1ヘクタールほどで、だいたい100メートル四方しかありません。そのあと、近くの「イル・オ・フーケ」という別の小島でも見つかりました。すみかは、潮が満ちたり引いたりする「潮間帯」とよばれる場所です。満ち潮のときには巣がすっかり海にしずんだり、何度も波をかぶったりします。
夜の調査で見つけた長い脚
最初に見つかったのは2023年のことです。モーリシャスの島の自然をとりもどす活動の中で、生き物を短い時間でいっせいに調べる「バイオブリッツ」という調査が行われました。昆虫の研究者マックス・ターセルさんたちのチームが、夜に岩場を調べていたところ、巣穴から長い脚がのびているのに気づいたそうです。チームは、はじめは1892年に記録された別のクモではないかと考えました。そのクモはそれまでに1回しか見つかっていない、なぞの多い種類でした。しかし、くわしく調べると、まだ名前のついていない新しい種類だと分かりました。クモの研究者ダニエラ・シャーウッドさんが中心となった国際チームが、イギリスのクモの学会が出している学術誌「アラクノロジー」で正式に発表しました。
自分では穴をほらない、ふしぎな巣
トタテグモのなかまの多くは、地面に穴をほって巣をつくります。ところがこのクモは、自分では穴をほりません。サンゴモという、かたい岩のようになる海藻がつくった岩の中にある細い管を、そのまま巣として使っています。この管は、何千年も前に貝やゴカイのなかまがあけたものと考えられています。入り口には、糸と砂、海藻をまぜてつくった「ふた」があり、まわりの岩にとけこんで見分けがつきません。このふたが、満ち潮や波から巣の中を守っていると考えられています。夜に活動し、ふたは小さなコインほどの大きさだそうです。
豆知識 タランチュラに近いなかま
このクモは、タランチュラと同じ大きなグループに入るトタテグモのなかまです。トタテグモは、巣の入り口に戸のようなふたをつけることから、この名前がつきました。日本にもトタテグモのなかまがいます。たとえばキシノウエトタテグモは、体の長さがメスで1〜2cmほどです。神社やお寺の石垣のすきま、古い家の庭先などに穴をほってすみ、近くを通る虫などをつかまえて食べます。石垣がコンクリートで固められると、すめなくなってしまいます。そのため、環境省のレッドリストでは「準絶滅危惧」とされています。準絶滅危惧とは、今すぐではないものの、この先数がへるおそれがある生き物のことです。
小さな島の自然を守る意味
今回の研究では、モーリシャスでそれまで記録のなかったクモが14種類も確認されました。これで、モーリシャスで知られているクモの種類は25%以上ふえました。モーリシャスは、昔から多くの自然の生き物を失ってきた国だといわれています。島の自然をとりもどす活動は、ダレルやモーリシャス野生生物基金、国立公園の担当の役所などが協力して進めています。モーリシャス野生生物基金のヴィカシュ・タタヤさんは、小さくて見すごされがちな場所こそ守り、元にもどしていくことが大切だと話しています。まだ見つかっていない生き物が、すぐ近くにかくれているかもしれないからです。
ここがポイント
- モーリシャスの小島で、潮間帯の岩にすむ新種のトタテグモが見つかった
- 満ち潮で巣が海にしずんでも、糸と砂と海藻のふたで巣を守っている
- 自分で穴をほらず、昔の貝などがあけた岩の穴を巣に使う
- 調査でモーリシャスのクモの記録は25%以上ふえた
出典: Durrell Wildlife Conservation Trust(2026年10月27日)、BBC Wildlife(Discover Wildlife)(2026年10月28日)、Sherwood et al., Arachnology 20(4)(カーディフ大学リポジトリ)(2026年)、World Spider Catalog、京都府レッドデータブック2015「キシノウエトタテグモ」
