沖縄美ら海水族館(沖縄県本部町)は11月2日、サンゴ礁の砂地にすむ小さな魚「オグロトラギス」を、水族館の中で卵から育てることに世界で初めて成功したと発表しました。育った1匹は10月17日から館内で展示されています。沖縄ではよく見かける魚なのに、赤ちゃんのころの姿はほとんど知られていませんでした。
どんな発表? 卵から全長5.5cmまで育った
発表によると、水族館の大きな水槽「熱帯魚の海」で、2026年4月29日にオグロトラギスの卵を採りました。卵は直径およそ0.9mmで、ゴマ粒よりも小さいくらいです。この卵をふ化させ、飼育員が少しずつ育ててきました。
いま展示されているのは、全長およそ5.5cmに育った1匹です。場所は「サンゴ礁への旅」のコーナーにある小さな水槽「サンゴ礁の小さな生き物」。生き物の調子によっては展示が終わることもあるそうです。
赤ちゃんの成長をたどると
ふ化したばかりの赤ちゃん(仔魚)は、水の中をただよって暮らします。オグロトラギスは、ふ化から14〜20日たつと、海の底で暮らす生活に切りかわることがわかりました。ふ化14日で底に下りたときの大きさは、全長およそ8mmでした。
名前の由来になっている尾びれの黒いもようは、全長およそ25mmで出はじめ、25〜31mm(ふ化から54〜62日)のころにはっきりしてきたそうです。卵の大きさや、いつ卵を産むのか、どのくらいの速さで大きくなるのか、体の色がどう変わるのかといった記録がまとめて取れたのは、今回の大きな成果です。
けんかっ早い? 育てる工夫
オグロトラギスは、自分の場所を守ろうとする「なわばり」の性質があります。稚魚のころからなわばりを守る行動が見られたため、水族館は水槽の広さを考えたり、かくれられる場所を置いたりして、成長に合わせて環境を変えていきました。担当者は地元の新聞に、育つにつれてけんかを始め、仕切りで分けるのも大変だったと話しています。
「世界初」というのは、水族館が日本動物園水族館協会の繁殖表彰の記録やインターネットの情報を調べ、ほかに発表された例が見つからなかったことをもとにしています。
豆知識:オグロトラギスってどんな魚?
オグロトラギスは、トラギスの仲間の魚です。日本では伊豆諸島から琉球列島の太平洋側にかけて見られ、浅いサンゴ礁や砂地で、海の底にじっとしていることが多い魚です。大人になると全長20cmほどになります。白っぽい体に黒い点がちらばり、尾びれに大きな黒いもようがあるのが目じるしです。
おもしろいのは、成長とともにメスからオスへ性別が変わる「性転換」をすることです。沖縄の図鑑では、県内で「最も普通にみられる」トラギスの仲間として紹介されるほど身近な魚ですが、海で卵が見つかっていないこともあり、生まれてから大人になるまでの暮らしは、なぞのままでした。
なぜ大事? 身近な魚ほど知らないことが多い
海の魚の多くは、小さな卵や赤ちゃんの時期にほとんどが育たずに終わり、その時期の様子を観察するのはとてもむずかしいことです。水族館で卵から大人近くまで育てられれば、どんな水温や食べ物で育つのか、どの時期が大切なのかを知る手がかりになります。水族館は、これからも飼育や繁殖の研究を続け、わかったことを生き物を守る活動に役立てたいとしています。
見に行くときは、大きな水槽だけでなく、小さな水槽ものぞいてみてください。砂の上でじっとしている魚がいたら、尾びれの黒いもようを探してみましょう。
ここがポイント
- 沖縄美ら海水族館が、オグロトラギスを卵から育てることに世界で初めて成功したと11月2日に発表
- 4月29日に採った直径約0.9mmの卵から育ち、全長約5.5cmの1匹を10月17日から展示
- ふ化14〜20日で海の底の暮らしに変わり、尾びれの黒いもようは全長25mmごろから出ることがわかった
- 沖縄ではよく見る魚なのに、赤ちゃんの時期はなぞだった。今回の記録は研究や保全に役立つ
出典: 沖縄美ら島財団(沖縄美ら海水族館)プレスリリース「世界初『オグロトラギス』の繁殖に成功」(2026年11月2日)、琉球新報デジタル(2026年11月3日)、Reef Life Survey「Parapercis pacifica」