写真はイメージです(Photo: Priyansh Patidar / Unsplash)
オーストラリアのシドニー工科大学(UTS)の研究チームが、インドの街で自由に暮らす犬を観察した、犬の行動の専門家45人の考え方の変化をまとめました。専門家たちは、たくましく落ち着いた犬の姿におどろき、飼い犬にもっと「自分で選ぶ」機会をあたえることの大切さを考えるようになったそうです。
どんな研究?
研究をまとめたのは、UTSのダニエル・ランプ准教授、博士課程で学ぶカピル・パトワルダンさん、ロザリー・チャップル上級研究員たちです。2026年10月12日、大学のニュースページで研究の内容が紹介されました。もとになった論文は学術雑誌に発表されています。
研究に参加したのは、欧米で犬の行動について学んだ専門家45人です。ふだんは、こわがり(不安)や、かみつき(攻撃)などの悩みをもつ飼い犬と、長い間向き合ってきた人たちです。専門家たちはインドの町から町へと旅をして、通りや市場など、みんなが使う場所で暮らす犬たちを観察し、感じたことや考えの変化をふり返りました。数をはかる実験ではなく、人の考え方の変化をくわしく調べる「質的研究」とよばれる方法です。
専門家がおどろいた犬の姿
インドには、およそ6000万頭の「街の犬」がいると見積もられています。決まった飼い主がいない犬も多く、つながれたり囲いに入れられたりせずに、自分で場所を選び、仲間や人とかかわりながら暮らしています。
専門家たちは、きびしい暮らしをしているのだろうと思っていました。ところが実際に見た犬たちは、人や車の多い道を上手に通りぬけ、もめごとがあっても、ほえ声や体の向きで気持ちを伝え合い、長いけんかにはなりにくかったといいます。人に近づくか、はなれるかも、犬が自分で決めていました。専門家たちは犬たちを「落ち着いている」と感じ、小さなことで興奮しやすい飼い犬とのちがいに気づきました。
参加者の問いは、「街の犬はどうやって生きのびているのか」から、「飼い犬は人との暮らしの中でどうがんばっているのか」へと変わっていったそうです。
街の犬がいちばん幸せ、ではない
ただし研究チームは、街の犬のほうがよい暮らしをしている、とは言っていません。街の犬には、病気やけが、おなかをすかせること、人とのトラブルなど、大きな危険もあります。研究チームは、よい犬の暮らしにたった一つの正解はない、と考えています。
大事なのは、犬のふるまいは犬だけで決まるのではなく、人との関係の中で生まれる、という見方です。いつも人のすぐ横を歩かせ、何でも人が決める暮らしは、安全な一方で、犬が自分で考えて動く力をのばす機会を少なくしているかもしれない、と研究チームは問いかけています。
豆知識:犬は「におい」で世界を知る
犬が自分で選べることの一つが、においかぎです。アメリカン・ケネル・クラブ(AKC)によると、犬の鼻にはにおいを感じとるしくみ(受容体)が2億個以上あり、人の約600万個とくらべてけたちがいです。犬は1秒に5〜10回ほど鼻をひくひくさせて、ほかの犬や動物が通ったあとなど、たくさんの情報を集めています。
AKCは、においをかぐことで犬が前向きな気持ちになる、という研究も紹介しています。においをかぐのは頭を使う作業なので、20〜30分しっかりかがせると、かがせない1時間の散歩と同じくらいつかれることもあるそうです。
飼い主ができること
飼い犬を街の犬のように自由にさせることはできませんが、散歩の中に「犬が選ぶ時間」をつくることはできます。
AKCがすすめる「においかぎ散歩」では、体に合った胴輪(ハーネス)と、3〜4.5mほどの長いリードを使います。草や木のある安全で静かな場所で、犬に歩く速さや向きを決めさせ、人は急がせないようにします。ふつうの運動のかわりにするのではなく、いっしょに取り入れるのがよいそうです。長いリードは、人や車の少ない場所で、まわりに気をつけて使いましょう。
においをかいでいる犬の表情がやわらかく、体の力がぬけていれば、楽しんでいるサインです。反対に、せかせかとあわてるようにかいでいるときは、不安を感じていることもあります。気になる様子が続くときは、かかりつけの獣医師に相談しましょう。
ここがポイント
- オーストラリアの大学が、インドの街の犬を見た専門家45人の考えの変化をまとめた
- 専門家は、自分で行動を選ぶ街の犬の落ち着いた姿におどろいた
- 研究チームは、よい犬の暮らしに一つの正解はないと考えている
- においかぎ散歩など、飼い犬にも「選ぶ時間」をつくる工夫ができる
出典: University of Technology Sydney「What can free-living Indian street dogs teach us about how to care for pet dogs?」(2026年10月12日)、American Kennel Club「Is Sniffing a Dog’s Version of Social Media?」(2026年10月27日閲覧)
