もう絶滅してしまったかもしれない、と心配されていた小さなサルのなかま「バンカスローロリス」が、インドネシアの島で今も生きていることが分かりました。2015年から2025年までの10年間に、90頭以上が見つかっていたと、研究者が新しい論文で報告しました。
約90年、記録がとだえていた
バンカスローロリスは、インドネシアのスマトラ島の南東の沖にある「バンカ島」などにすむ動物です。首都ジャカルタから飛行機で1時間ほどの場所にあります。
この島で、科学者がバンカスローロリスをきちんと記録したのは、1930年から1932年ごろが最後でした。その後は確かな記録がなく、世界の野生動物の絶滅の心配度をまとめている国際自然保護連合(IUCN)は2020年、「絶滅のおそれがとても高く、すでに絶滅したかもしれない」という評価をしていました。自然保護団体リワイルドも、行方の分からない「失われた霊長類」のひとつに挙げていました。
保護センターが10年間で90頭以上を記録
今回の報告は、動物学の専門雑誌「スピキシアナ」に掲載された論文で、ロイター通信が2026年10月20日に伝えました。論文の書き手のひとりは、オーストリアのウィーンにある動物園「ハウス・デス・メーレス」の大学院生、ティモン・グラウさんです。
バンカ島には、けがをした野生動物を助ける「アロビ野生動物レスキューセンター」があります。このセンターが、2015年から2025年にかけて、島のさまざまな場所で90頭以上のバンカスローロリスを記録していました。見つかった場所は、人の家や庭、農園、道路などでした。
多くは手当てを受けて森へ
保護されたバンカスローロリスの中には、電線にふれて大けがをしたものも多くいました。センターで手当てを受けたあと、86頭がすみやすい自然の森に帰されました。手当てをしても助からなかったものも、わずかにいたそうです。
グラウさんは、この動物が島のいくつかの場所で今も生き残っていることが分かったと話しています。記録が「とだえていた」のは、本当にいなくなったからではなく、夜にこっそり動く動物で、目にふれにくかったからなのかもしれません。
めずらしい「毒」をもつサル
スローロリスは、夜に活動する「夜行性」の動物です。木の上で暮らし、名前のとおり、ゆっくりと慎重に枝をつたって動きます。バンカスローロリスは赤茶色の毛と、顔の模様、大きな目が特ちょうです。体の長さは平均で約26cmと記録されています。サルのなかまですが、人やチンパンジーよりも、マダガスカルのキツネザルやアフリカのガラゴに近い動物です。
いちばんの特ちょうは、ほ乳類ではとてもめずらしい「毒」をもつことです。ひじの近くに毒のもとを出す場所があり、身の危険を感じると両うでを上げて、そこをなめて、だ液とまぜます。そして、かみつくことで毒を相手に送ります。人がかまれると、強いアレルギーの反応が起きることもあります。毒は主に、スローロリスどうしのけんかに使われると考えられています。
食べ物はくわしく分かっていませんが、ほかのスローロリスと同じように、虫や木のやに(樹液が固まったもの)、花のみつなどを食べていると考えられています。
これからの課題
バンカ島では、すずという金属をほり出す鉱山や、アブラヤシの農園づくりのために、森が切り開かれてきました。グラウさんは、残っている自然の森を守ることが大切だと話しています。今後は、島のどこに、どれくらいの数がすんでいるのかを、計画的な野外調査で調べる必要があるそうです。
日本との関係は?
スローロリスのなかまは、ワシントン条約という国際的な約束で、商売のための国どうしの取り引きが禁止されています。日本でも、2007年9月13日から「種の保存法」という法律で守られる動物になり、売り買いは原則としてできません。
環境省によると、スローロリスの寿命は約20年と長く、夜行性で静かな暗い場所が必要で、ストレスに弱い動物です。見た目がかわいいからといって、家で飼える動物ではありません。日本ではスローロリスのなかまを飼育している動物園もあるので、見る機会があれば、ゆっくり動く様子を観察してみてください。
ここがポイント
- 1930年代を最後に記録がとだえていたバンカスローロリスが、インドネシアのバンカ島で生きていた
- 2015〜2025年に保護センターが90頭以上を記録し、86頭を森に帰した
- ひじの近くから出る液を使う「毒」をもつ、めずらしいほ乳類
- 森を守ることと、すんでいる数を調べることがこれからの課題
出典: Reuters(KSL.com掲載)「Feared extinct, Bangka slow loris primate rediscovered in Indonesia」(2026年10月20日)、環境省「知っていますか、スローロリスのこと」、野生生物保全論研究会(JWCS)スローロリス識別資料、Wikipedia「Bangka slow loris」(2026年10月閲覧)