写真はイメージです(Photo: Alvan Nee / Unsplash)
犬は、飼い主の顔の表情と声の感じが食いちがっていると、脳の反応が変わるかもしれません。麻布大学などの研究グループが、犬の頭に電極をつけて脳波を調べ、そんな結果を発表しました。犬が人の気持ちをどう受け取っているのかを知る、新しい手がかりになりそうです。
どんな研究? 麻布大学などが発表
麻布大学(神奈川県相模原市)は2026年10月21日、犬の脳波についての研究成果を紹介しました。中心となったのは、麻布大学獣医学部の永澤美保教授と菊水健史教授、奈良先端科学技術大学院大学の久保孝富准教授たちです。関西大学や東北大学、企業も協力しました。
研究の論文は、イギリスの科学雑誌「サイエンティフィック・リポーツ」に2026年8月22日に掲載されています。国の研究支援の制度(JSTのCREST)を受けて進められた研究です。
「喜び」と「怒り」の顔と声を組み合わせた
実験に参加したのは、家庭で暮らす犬3頭です。犬には、飼い主が「喜び」または「怒り」の表情をしている映像を見せました。映像が始まって1.5秒後に、飼い主の「喜び」か「怒り」の声を流します。
こうして、顔と声の気持ちがそろっている場合と、顔は喜んでいるのに声は怒っているような、気持ちが食いちがう場合をくらべました。
頭に電極をつけて脳波をはかる
脳波とは、脳の中で神経が働くときに生まれる、ごく弱い電気の変化のことです。今回は、起きている犬の頭の皮ふの上に、7か所の電極をつけて記録しました。体に針を刺したりしない「非侵襲」という方法で、犬に痛みをあたえずに調べられます。
声が流れた瞬間を出発点にして、その後の脳波の変化を何回分も重ね合わせ、平均をとりました。これを「事象関連電位」といいます。犬が体を動かしたときなどに出る、脳とは関係のない電気の乱れは、計算で取りのぞきました。
結果:食いちがうと、左のおでこ側で大きな反応
調べた結果、頭の前の左側にある電極で、声が聞こえてから0.25〜0.5秒後に、気持ちが食いちがう場合のほうが、そろっている場合より大きな反応が出ました。
人の脳の研究でも、同じくらいの時間に、意外なものに気づいたときや、言葉の意味が合わないときに出る反応が知られています。ただし、犬の反応が人とまったく同じ働きをしているとは、まだ言い切れないそうです。研究グループは、犬が表情と声の情報を脳の中でまとめて受け取っている可能性を示したと説明しています。
豆知識:犬は人の気持ちを読むのが得意?
犬が人の表情と声を結びつけられることは、これまでの研究でも注目されてきました。2016年には、イギリスのリンカーン大学とブラジルのサンパウロ大学のチームが、17頭の犬で実験をしました。犬は、聞こえてきた声の気持ちに合う顔の写真を、より長く見つめたそうです。
また麻布大学などのグループは2026年8月にも、飼い主がストレスを受けているとき、その顔や声、においに犬がより強く注意を向けることがあるという研究を発表しています。今回の研究は、こうした行動の観察だけでなく、脳の反応を細かい時間の単位で調べられる点が新しいところです。
これからどうなる?
今回調べたのは3頭だけなので、すべての犬に当てはまるかどうかは、まだ分かりません。研究グループは今後、調べる犬の数を増やして、同じ結果が出るかを確かめる予定です。
また、反応が「気持ちをまとめる働き」なのか、「予想とちがうことに気づく働き」なのか、「注意が強まった」だけなのかも、これから詳しく調べるそうです。人と犬が長い時間をかけていっしょに暮らしてきたからこそ生まれた力なのか、ほかの動物にもある力なのかを、くらべることも考えています。
犬と暮らしている人は、話しかけるとき、表情と声の感じをそろえることを意識してみるのもよいかもしれません。犬の様子で気になることがあれば、かかりつけの獣医師に相談しましょう。
ここがポイント
- 麻布大学などが、犬の脳波を使った研究を2026年10月21日に紹介した
- 飼い主の表情と声の気持ちが食いちがうと、声の0.25〜0.5秒後に大きな反応が出た
- 犬が顔と声の情報を脳の中でまとめている可能性がある
- 調べたのは3頭なので、今後は数を増やして確かめる
出典: 麻布大学 プレスリリース「飼い主の『顔と声』が食い違うと、犬の脳波に違い」(2026年10月21日)、大学プレスセンター「イヌが飼い主の微妙な感情や生理的変化を読み取る可能性を示唆」(2026年8月26日)、Sci.News「Dogs Can Recognize Dog, Human Emotions」(2016年1月)
