写真はイメージです(Photo: Matheus Protzen / Unsplash)
ヨーロッパとアフリカの間を毎年何千kmも旅する鳥「ヨーロッパヨタカ」。スウェーデンのルンド大学の研究チームが、この鳥を風のトンネルで飛ばして調べたところ、翼は速く飛ぶのがあまり得意ではなく、ゆっくり飛んだり向きを変えたりするのが得意な形だと分かりました。翼を振り上げるときにも前へ進む力を出すという、鳥では珍しいしくみも見つかりました。
どんな研究?
研究をしたのは、ルンド大学のクリストファー・ヨハンソン准教授たち4人のチームです。結果は2026年9月30日、科学雑誌「PLOS Biology(プロス・バイオロジー)」に発表され、10月中旬には海外の科学ニュースサイトでも紹介されました。
チームは野生のヨーロッパヨタカ5羽をつかまえ、そのうち3羽で実験をしました。使ったのは「風洞」という、トンネルの中に人工の風を流す装置です。鳥は向かい風の中で羽ばたくので、同じ場所にいながら、空を飛んでいるのと同じ状態をつくることができます。
空気の流れを「見える化」
風の速さは秒速2.6mから11mまで、およそ2mずつ変えました。時速になおすと、約9kmから約40kmです。
鳥が羽ばたくと、翼のうしろに小さなうずができます。チームは、空気の中に細かいつぶを流してレーザーの光を当て、つぶの動きを1秒間に640回のペースで撮影しました。こうすると、ふだんは目に見えない空気の流れが分かります。さらに2台の高速カメラで、体の17か所の動きをコンピューターで追いかけ、翼がどう動いているかもくわしく調べました。
分かったこと① 速く飛ぶのは少し苦手
ヨーロッパヨタカの翼は、先の方が幅広く、羽の先がすき間をあけて広がっています。この形は、ゆっくり飛ぶときに体を浮かせる力を出しやすい一方、スピードを上げると力のむだが多くなることが分かりました。
長い距離を飛ぶ渡り鳥は、遠くまで効率よく飛べる体をしていると思われがちです。ところがこの鳥は、長旅の効率を少しがまんするかわりに、えものの虫を追って向きを変えたり、とてもゆっくり飛んだりする力を大切にしているようです。研究チームも、この結果は「よく考えられた飛ぶ機械」という渡り鳥のイメージとはちがう、と話しています。
分かったこと② 翼を上げるときも進む力
鳥はふつう、翼を振り下ろすときに、体を前へ進める力(推力)を主に出します。ところがヨーロッパヨタカは、翼を振り上げるときにも推力を出していました。これまでこのしくみは、主にコウモリや昆虫で知られていたものです。
研究チームは、その理由を、翼をあまり小さくたためないからではないかと考えています。翼を振り上げるとき、多くの鳥は翼をたたんで空気の抵抗を減らします。ヨーロッパヨタカは翼を広げたままに近いので、その広い面をうまく使い、前へ進む力に変えているのかもしれません。
豆知識:ヨーロッパヨタカってどんな鳥?
イギリスの鳥類研究団体BTOによると、大人の体重は平均で約73g、翼の長さは約20cmです。夕方と明け方に活動し、飛びながら大きな口でガなどの虫をつかまえます。
イギリスには5月から8月中ごろまで夏をすごしにやって来て、冬はアフリカ中部のコンゴ民主共和国の南部ですごします。秋はサハラ砂漠をまっすぐこえて南へ向かい、春は西アフリカを通る、約2,000kmも遠回りの道で戻ってきます。巣らしい巣はつくらず地面に卵を2個ほど産み、オスとメスが交代で約18日間あたためます。子育てできる年まで育った鳥は4年ほど生きるのがふつうで、12歳をこえた記録もあります。
日本でも会える? なかまの「ヨタカ」
日本には、なかまの「ヨタカ」がいます。全長は約29cmで、春から秋にかけて見られ、九州より北で子育てをする夏鳥です。昼間は木の枝や地面でじっとしていて、茶色い細かいもようのおかげで、見つけるのがとてもむずかしい鳥です。
夜になると「キョッキョッキョッ」と早口で大きな声で鳴き、林道の上を飛びながら虫をとります。夏の夜、林の近くで耳をすませると、その鳴き声に出会えるかもしれません。今回の研究は外国の鳥のものですが、日本のヨタカも、ゆっくり羽ばたいて飛ぶことが知られています。
これからどうなる?
研究チームは、翼を振り上げるときに推力を出すしくみが、ほかの鳥や空を飛ぶ動物にどのくらい広がっているのかを調べる予定です。
また、この発見は、鳥のように羽ばたいて飛ぶドローンやロボットの設計にも役立つかもしれないと考えられています。翼を大きくたためない機械でも、振り上げる動きを上手に使えば、前へ進む力を生み出せる可能性があるからです。
ここがポイント
- ヨーロッパヨタカの翼は、速く飛ぶより、ゆっくり飛んだり向きを変えたりするのが得意な形
- 翼を振り上げるときにも前へ進む力を出していた(鳥では珍しいしくみ)
- 風洞で3羽を飛ばし、空気の流れを1秒間に640回撮影して調べた
- 日本にも、なかまのヨタカが夏鳥としてやってくる
出典: PLOS Biology(Johansson et al.)(2026年9月30日)、ScienceDaily(2026年10月17日)、BTO「Nightjar」(2026年10月20日閲覧)、サントリーの愛鳥活動「ヨタカ」(2026年10月20日閲覧)
